【記念事業】「ベーシックインカム」についての意見を集めます~すべての世代の将来安定を目指して~

企画提案者:大津SDGs実行委員会

日本の少子化に歯止めがきかず、いろいろな意見が交わされ同じような対策が講じられています。しかしどうも場当たり的な対象療法に終始しているといえます。問題はもっと深いところにあるように思われます。

根本的な対策が必要!

そう思いますが、それはどんな対策なのか? それを考えてみようと思います。

「みんなで、大津」が3年目に入るにあたって、この大切な議論を記念事業として取りあげます。そのヒントとなる考え方・制度が「ベーシックインカム」といわれるものです。

「ベーシックインカム」とは何か。その導入は本当に日本の少子化にストップをかけることができるのか? あなたが思う意見を述べてください。

ご質問ご意見はメールで下記までお願いします。

大津SDGs実行委員会

y.moriguchi3719@gmail.com

 

● サラリーマンがまじめに定年まで働くとして、なお老後に安定した生活が営めるかに疑問や不安があるような社会では、結婚して子育てをしようという若者が多くなる筈はない。老後の安定にある程度の自信が持てる社会をつくることが一番大事です。今の日本にはそれがないのが問題です。

● とは言っても世は競争時代、ただ真面目に勤めるだけでは平穏など得られないんじゃないですか。競争に勝つことが第一。少子化で国の力がどんどん弱り、国際競争に負けてしまえばそれでおしまいでしょ。

● 安定平穏か競争かということですか。

●この2つは両方とも大切ですが、二者択一という問題ではないと思います。ある程度の安定が基盤にあって、その上に適切な競争が行われる社会がいいのではないですか。

●ベーシックというのは、そういう社会基盤のことですね。

●そうです。一定の安定平穏を確保するための基盤となる経済的保障(所得)が大切です。それが「ベーシックインカム」(最低限所得保障)と呼ばれるものです。生活の基礎的な支出をまかない、将来の不安を解消(あるいは軽減)してこそ若者も結婚を考え余裕を持った子育てができるのです。

●「最低限所得保障」って? もう少し詳しく教えてください。

●おぎゃあと生まれた赤ん坊からすべての国民に同じように(同額)の生活のための所得を支給するという制度です。

●赤ん坊からすべての国民に、というのはすごいですね。全国民に年金を払うということですか。

●現行の年金とは違います。年金は掛けてきたお金の額や受取開始時期の違いで、ひとり一人受け取れる金額が異なりますが、「ベーシックインカム」は、掛け金はゼロですし、年齢・性別に関係なくすべての人に等しく支給されます。

●その財源はどうするのですか?

●大きな財源が必要になります。現行の社会保障の見直しが必要です。まず年金です。年金は直ちにやめることはできませんからベーシックインカムを始めるとある時点まで二つの制度が並行することになります。既に年金を受給している人については年金額からベーシックインカムで支給される金額を差し引くことになりますから総額では変更なしです。問題は年金の掛け金はしているがまだ支給されていない年代の人に対する対応策です。もう新たな掛け金はやめるとしてもこれまでに支払った掛け金に対する措置が必要です。年金以外にも生活保護や子どもへの助成金は原則なくなります。

●いま、子育て支援の政策が議論されていますが、それはどうなりますか。

●もう必要がなくなります。三人目の子どもの大学授業料無償化などという子どもを増やすためのエサにしようというような政策は、言葉はよくないですが姑息ですね。そのような細々した政策の積み重ねではなく、生まれた時から月額定めたお金を払い、あとは自己管理・自己の計画で生活を守ってもらうというのがベーシックインカムの考え方です。そのことによって若い世代のみなさんが結婚・出産・子育ての計画が立てやすく、将来の不安をなくして計画的な生活設計ができるということでしょう。

●では、いったいどれくらいの金額がもらえるのですか。

●大切なポイントですね。いろいろな試算があるようですが、いま言われているのは月額4~7万円というところです。

●先ほどの説明で年金受給者には年金からベーシックインカムの金額を差し引くということですが、それは国民全体に支給するというベーシックインカムの趣旨に照らして考えると不公平ではありませんか?

●そうですね。説明が不十分でした。申し訳ありません。訂正します。最低限所得保障ということなので、既に年金を受給している人はそれ以上の保障が必要ないと勘違いしました。全国民に等しくという観点からいうと年金受給者にもベーシックインカムとして定められた金額が支給されることになります。しかし年金をもらい、ベーシックインカムももらい、さらにその他の所得(事業や就業している場合)もある、という人には、最低限所得保障という視点から支給されるベーシックインカムには何らかの制約を設けるのは当然かと思われます。ベーシックインカムにおける所得制限あるいは年金支給額の見直しが必要でしょう。他方、現行の年金だけでは生活が厳しいという人もおおぜいいます。それらの人々にはベーシックインカムの支給が必要でしょう。

●雇用保険もなくなりますか。

●失業時に支払われる失業保険はベーシックインカムで補われるのでなくなるでしょう。しかし雇用保険の中で、いわゆるリカレント教育と呼ばれている教育訓練・再就職に必要な訓練は形を変えて継続する必要があります。

●介護や医療はどうなりますか?

●社会保障の中で、介護と医療はベーシックインカムで賄うことはできません。この二つは継続しなければなりません。ただ介護については、家族が介護の担い手になる場合の扱いについて改革が必要です。家族による介護について有償評価する仕組みを取り入れる必要があります。

●仮にベーシックインカムとして全国民に月額5万円を支給するとすれば、どれだけの財源が必要になりますか。

●人口を1億2千万として、月に6兆円、年額72兆円ということになります。令和5年度の歳出の中で社会保障費(国庫負担分)は約37兆円ですから、ほぼ2倍の額になります。この国庫負担以外に地方負担分が約16.5兆円、国民が支払っている保険料が約77.5兆円ありますので、社会保障の財源は合計で約130兆円になります。おおざっぱに言ってこの財源の5割を年金に、3割を医療に、残りの2割を介護・子育て等の福祉に使っています。

●年金と子育て助成をベーシックインカムで肩代わりするとしたらどうなりますか。

●年金が約60兆円、子育て助成が約10兆円不要になるとして、歳出は計70兆円減ります。一方、年金保険料(国民・事業者負担)収入が約54兆円ありますので、それが0になるとすると差し引き年金関係では6兆円の減ということになります。それに子育て助成の10兆円を加えると合計16兆円の歳出減になる計算です。

●そうするとベーシックインカム(月額5万)導入で72兆円が新たに発生し、それに対して年金と子育て助成で16兆円の減が見込めるので、差し引き56兆円が必要財源になるということですか。

●そのような計算になるようですね。しかしここで、国民と事業者が負担している年金保険料が54兆円負担しなくてよいようになりますから、国民と事業者は助かりますね。

●いずれにしても多額の財源が必要になりそうですね。そして、国民が収めた年金保険料でまだ使用されていないのがあると思いますが、それはどうなりますか。

●年金積立金といわれるものがあります。日本の年金制度は世代間の相互支え合いという考え方で運用されていますから、将来の年金支給のための原資を持って、それを運用して財産を増やす制度があります。現在の運用資産は約200兆円です。年金制度がなくなれば積立金も必要ありませんが、いずれにしてもベーシックインカムを始めるために必要な財源に回されることになりますね。

●ベーシックインカムの導入は慎重に進めないと多額の財源を用意しないといけないようですね。

●そのとおりです。しかし目先の若者対策の積み重ねでは少子化という大きな流れを止めることはできないというところまで来てしまっていると考えねばなりません。現在の年金制度では若者は「自分たちは年金をもらえなくなるのでは」という不安を拭えない状況です。次世代を担う若年層が自分の老後が心配という不安定な社会では、結婚も子育ても真剣に考えることは難しいでしょう。若者の将来不安をなくすることが今、何よりも大切で切実な日本の課題です。そのためには思い切った根本的な対策がぜひ必要です。ベーシックインカムの導入ですべてが解決するという安易な考えは許されませんが、思い切った対策を講じないとどうしようもないと思われます。

●年金だけに頼らなくても老後が安心なように国は国民の資産形成の後押しをしようとしていますね。

●NISAが新しい形になったのもその一つでしょう。最近の株高は新NISAの導入による買い注文の増加が一因と言われているようですが、確かに新しい対策のひとつになるでしょうが、それで国民のみんなが資産形成に成功できるかは分かりません。逆に資産形成を国民一人一人の自己責任にしてしまおうという国の考えなら、更に将来不安を増大しかねないと思われます。

●その他に考えなければならない対策にどのようなことがありますか。

●経済界の意識改革が大切です。株価が35,000円という高値を超えました。日本企業の業績が向上しているという背景があるようで喜ばしいことです。経済界から日本の人口減少が続いたとしても最低8千万人を確保しないと諸々の社会システムが持続できなくなるという危機感が示されています。企業にとって人口減少はお客さんが減ることであり国内消費が減ることですから企業の将来計画にとって大問題です。そうであれば少子化対策を国に任せておくのではなく経済界も協働して役割を担うことが必要です。ベーシックインカム導入の財源捻出について経済界に期待される役割は極めて大きいものがあります。

●ベーシックインカムの導入を考えるとして、それが地についた制度となるまでの間、国民が日々の生活を安定させることができるには、今、話題となっている賃上げが大事と思いますが。

●そのとおりです。実質賃金が長年にわたって上昇しない(マイナスである)という状態は早急に改善しなければなりませんね。実質賃金は名目賃金と物価の関数ですが、来春の賃上げが期待されていますが、片やある程度の物価上昇も経済政策上必要とされており、物価上昇を上回る賃上げを実現できるかが課題です。また大企業が相当の賃上げをしたとしても中小企業や年金生活者の所得が増えないと全体としての実質賃金(可処分所得)の増加にはつながらないということになります。

●報道によると政府もいろいろと対策を考えているようですが。

●ぜひ改善しなければと思うのは、非正規雇用の解消と高齢者雇用の拡充です。このふたつを改善しないと物価上昇を上回る賃上げを持続させることはできないと思いますね。働く人の事情で正規社員と同じフルタイムで勤務することは困難という人もいると思います。そのような人に短時間勤務を認める制度は必要ですが、それが非正規雇用につながるというのではなく、仕事の質が正規社員と同様であれば例え勤務時間が短くても正規社員と同じ扱いをすることが必要ではないでしょうか。

●高齢者の扱いはどうですか。

●人手が不足したり、技術の継承が必要であったりして、定年延長や再雇用を導入する企業が増えてきているようです。人生100年時代と言われたりしますが、健康で働ける人たちが従来の定年制度で退職を余儀なくされるというのが常態になっています。退職後は仕事なし、趣味やボランティアで社会とのつながりはなくさないようにしています、というシニアが増えています。歳を取ると社会の動きについていけない、新しい技術の習得が難しい、ということはあるでしょう。その事実は認めるとして、企業は社員の勤務中にスキルアップのための教育訓練に努め、賃金水準が多少下がることはあるとしても、できるだけ長く雇用を続けるようにすることが企業の責務であると思います。経済界としても人手不足に対応できるとともに全体として消費を確保するためにも必要と思われます。人材として高齢者を活かして使うことは日本の課題です。

●賃上げができない理由として生産性が向上していないと言われますが。

●ひとつの例をあげると石斧から鉄斧へと進化したことによって、木材加工の生産性が向上しました。切れ味がよくなり、7倍の生産性向上があったという説もあります。つまり生産性の向上は働く人の勤労意欲によるだけでなく、生産手段(道具・機械・装置など)によって大きく変わるということです。日本で賃上げが進まなかった原因に設備投資など生産手段への投資が進まなかったことが指摘できます。企業は得た利益の多くを内部留保に回し新しい生産手段の導入を後回しにしてきた事実が、いま反省されています。

●これからはどうなるのでしょうか。

●いま注目されているのはDX(デジタルトランスフォーメーション)で、IT技術などを活用して企業のデジタル化を図り、ビジネスモデルを変革して生産性を向上させようという取り組みです。またAI(人工知能)とか最近の生成AIとか、人間の頭脳に替わるといわれるほどの新しい科学技術が育ちつつあり、企業の生産性も大きな変化を遂げていくと考えられます。

●でもすべての分野でそのような進化が進むのでしょうか。日本には独自の伝統的な文化がありますが、伝統的に継承されてきた職人的な技能に頼る分野はどうなりますか。

●二極化していく可能性がありますね。人の働き方も違っていくでしょう。大きな時代の流れに沿っていく働き方もあれば、それとはやや遠ざかって生きる働き方もあります。両者は乖離していくでしょう。ここで大事なことは、ベーシックインカムが導入されたとしても、それだけで生活することはできませんから、各人は自分の能力や環境に適した職業を選択して生活を支えなければなりません。また職業を通じて社会に貢献することも大切です。

●ベーシックインカムの導入が職業選択に影響を与えることになりますか。

●なり得ますね。ベーシックインカムで日常生活の基礎的な部分が満たされるとなれば、その上に自分の人生設計を立て、夢を実現するという可能性が大きくなりますから、自分なりの起業を起こすなり資格を取得する学習をしたり、転職を考えたりする余裕が生まれることは確かでしょう。そしてその中に結婚や子育ての計画を立てることもできますから、少子化対策としての効果が期待できると思います。多くの国民が、日常の生活や仕事にあくせくするだけでなく余裕を持って人生を設計することができるようになるのは、ベーシックインカムの大切な効用です。

●基礎的な生活が保障されると人間が怠惰になるという心配はないでしょうか。

●そういう人もいるでしょう。性善説ではありませんが、仕事に励むということは生活を支えるためというのは当然ですが、それに尽きるものではありません。人間は仕事を通じて自分を高め社会の役に立つことに喜びを感じることができます。単純な繰り返し作業であっても何か改善する工夫をしたり、他の人から感謝の言葉をもらったりすると嬉しいものです。怠惰な生活を送ることが決して喜びをもたらしてはくれませんから、怠惰に飽きることになるでしょう。ですからベーシックインカムが怠惰をもたらすという心配は不要です。

●話は少し元に戻りますが、働き方について、時間短縮やジョブ型への移行とか言われますがどんな意味があるますか。

●労働時間の短縮はライフ&バランスといわれるように、仕事一辺倒から解き放されて仕事の時間と家庭生活など自分の時間とのバランスをうまく取るという点で大切なことです。労働が過剰で過労死するなどという事態はもう今日の日本ではあってはならないことです。また少子化を防ぐために夫婦共同で子育てを分担しあうという男女共同の時代です。その推進のためには労働時間の短縮は有効です。一方、既に週休二日で、国が定めた祝日があり、企業が定める有給休暇を数えると年間の実質労働時間は短くなっています。一般的にいえば、もうこれ以上休日を増やす必要はないように思います。しっかり働いてしっかり給与を得ることが大切です。また仕事を通じてキャリアを積んでいこうと思えばある程度の労働時間が必要です。特に知的労働ではそう言えると思います。

●ジョブ型への移行はどういう意味がありますか。

●ジョブ型への移行は最近の賃上げや生産性向上の議論とからんで取りあげられるようになってきました。日本には伝統的に終身雇用で、生涯同じ企業で働くという慣例がありました。終身雇用はいい面がある一方、弊害も目立つようになってきました。社員が時代の流れに合った研鑽を怠ると、会社が人材育成に尽力しないと、歳を取るとともに役に立たなくなり「窓際族」とか「社内失業」とかいわれる事態が起こり、企業全体の生産性を下げることになってきたのです。生産性を下げないようにするには終身雇用を止めて、各人が持っている専門的な知識や技能が活かせる企業へと転職する、すなわち仕事の専門性(ジョブ)を主体とした雇用形態がよりよいのではないか、欧米の企業ではジョブ型が中心の雇用形態になっており、そのおかげで生産性が向上し賃上げができている、日本もそれを見習うべきだ、という議論に発展してきたのです。

●日本の雇用がジョブ型へと移行していく見通しはどうですか。

●ジョブ型の雇用が増えていく可能性はあると思いますが、終身雇用(少なくとも雇用期間が長期)との並列・二本立てになっていくと思います。ジョブ型を取り入れるには企業内の仕事がジョブによって明確に区分されていることが前提として必要ですが、例えば会計・営業・人事・購入・設計・生産・研究という程度の区分では十分ではないでしょう。最近のデジタルの進歩が専門的な知識・技能を持つ人材を必要としていることからジョブ型という考えが浮上してきたと思われます。IT人材と呼ばれる人たちに需要が集中しているきらいがありますね。また2024年問題といわれ物流を担う大型車の運転手不足やインバウンドで増えている観光客用のタクシー運転手の不足も問題となっており、それと関連してライドシェアや白タクの制限緩和が議論されています。さらに宿泊施設のサービスを担う従業員の不足があり、人材確保のため人件費が高くなりそれが宿泊代に跳ね返っているということがあります。これらはジョブ型の性格が分かりやすい業務といえます。勤務する会社を変えることによって賃上げを期待できる現況ですね。

●終身雇用が時代遅れになってきていますが。

●終身雇用が悪いとは言えません。企業が自社にふさわしい人材として採用し、本人も企業の価値観に賛同して自分の生涯を託するに足る会社であると判断して定年まで勤務するというのは意義あることだと思います。なにか終身雇用が日本の経済発展を阻害しているように考えるのは偏見でしょう。問題は終身雇用と同時に語られる年功序列です。勤務年数に応じて自動的に給与があがるという仕組みは、勤務年数とともに能力が進歩し会社への貢献も期待できるなら悪いとは言えません。ただ現実にはそのようにならない。ただ年数に応じて自動的な昇給があると人は甘えてしまうかも知れません。つまり終身雇用も年功序列も運用が適切に行われるなら必ずしも時代遅れとは言えないと思います。ジョブ型の雇用を奨めたいあまり終身雇用を悪者扱いにする機運があるのはよくないと思います。日本は終身雇用の下で大きな経済成長を成し遂げた歴史を持っています。時代の変化が目まぐるしい昨今、終身雇用を継続するなら人材育成とローテーション(社員の育成に重きを置いた配置転換)を計画的に取り入れて、個々の従業者に応じた対応をすることが大切です。終身雇用は働く人の生活を安定させ業務に専念できるというメリットがあります。また長年勤務することによって得られる退職金も大切です。ローンを組んで新居を建てようと考える人は大勢います。定年時にローンの残を退職金で精算するという人生設計をする人も多くいます。ジョブ型で賃金のよい職場を求めて転々とする人生は必ずしもよいとは言えないでしょう。日本の場合、職場を替わって賃金が増えるという事態はまだまだ多いとは言えないと思います。最近、退職金があるから人は職場を替わろうとしない、退職金の課税強化をすべきだという議論を聞きます。少し行き過ぎた議論というべきでしょう。新しい形の終身雇用システム(長期人材育成計画と育成に重点を置くローテーション)を導入して、社員と企業の両輪の成長を目指すことが必要です。

●ベーシックインカムの土台の上に新しい形の終身雇用システムを置けば将来安定が得られるという考えですか。

●そのとおりです。

●この数日、株の値上がりが大きいようですが、来春の賃上げに好ましい状況と言えますか。

●日経平均株価が上昇している背景は、日本企業の業績見通しが良好ということがありますが、証券取引所が日本企業の株価を見直す指標としてPBRを取り上げています。株価純資産倍率という指標で、企業の資産を株数で割ると1株当たりの資産額が算出できますが、1株当たりの資産と株価を比較して(株価を1株当たり資産で割る)例えば1であるとすれば、その企業の株価は保有資産どおりの評価を得ていることになります。しかし日本の企業にはこの値が1以下の会社がたくさんあります。それでこの比率を少なくとも1、あるいは1以上になるように株式市場で広報することが推奨されています。1以下であると株式を上場している価値がない、つまり「上場失格」ということです。これが最近株価が上昇している一つの要因です。もう一つは中国の経済の先行き見通しが良くないので、中国に投資していた投資家の資金が日本に回ってきているといわれています。

●賃上げが期待できそうですね。

●株価が堅調であることは企業に好影響を及ぼすと言えます。企業の収益が向上すれば人件費に回す資金も生まれますから賃上げが期待できますが、問題は労働分配率です。この比率は企業が得た収益をどのように使うかに関わるもので、大きく分けると企業は得た収益を設備や研究開発に投資する、株主に配当する、役員報酬に回す、従業員の賃金に回す、資本金を増資する、使わずに将来のために内部留保しておく、というように区分できますが、その中で賃金に回す割合を労働分配率といいます。賃上げにはこの労働分配率を向上させることが必要です。しかし現実には多くの企業は株式配当に回す率に比べると賃金に回す率は低く抑える傾向があります。労使協調してまず企業の利益をあげること、そして労働側は労働分配率の向上を経営側に交渉して実現すること、これによって賃上げが現実のものとなります。物価上昇に追いつかない賃上げ、つまり実質賃金がマイナスになっている日本の現状から早く脱出することが必要です。

●ベーシックインカムの導入の上に、安定した雇用と継続的な実質賃金の向上が将来の不安解消のために必要であることが分かりました。

●更にベーシックインカム導入の財源についてお話しましょう。やはり増税が必要ですか。

●そうですね、必要だと思います。相当の資金が必要ですから財源の一つとして増税は必要になるでしょう。問題は増税のしかたです。消費税のような国民みんなに課税する税目だとベーシックインカムの効果が薄れるだけで本末転倒といわれるかも知れません。消費税増税はダメです。ベーシックインカムは長い目で見て少子化に歯止めをかけ、将来の働き手や消費者を確保するための政策ですから企業にとっても大切な政策です。ここは企業に支援してもらいたいですね。となると法人税の引き上げが本命ですが他にも方法はあります。先にも述べましたが今、企業が獲得した利益の多くが株主に支払われています。株主の声が大きいからです。ここはベーシックインカムの目的を明確に訴えて、ベーシックインカム導入が企業の将来メリットであることを株主に理解してもらい、株主への配当源からベーシックインカム財源への積み立てを法制化するなどの対策が必要だと思います。さらに内部留保つまり余剰金の企業内積み立てに対しても一部をベーシックインカム導入財源にするしくみの法制化も必要でしょう。次に個人については基本的には所得の再分配が必要で、相続税や遺産税の税率引き上げ、そして金融資産に対する課税の導入も考えられます。日本には現在2,000兆円を超える個人所有の金融資産があるといわれています。その資産形成の背後には個々の事情・苦労もあってのこととは思いますが、この際、国民みんなの将来安定のための財源として金融資産保有税のような税制の導入を考える必要もあると思われます。その代わり今はほとんどゼロのような預金金利を引き上げる金融政策が必要です。預金をすれば金利が付く、その代わり保有資産には税金がかかる、というようにするのが妥当だと思います。新しい資本主義を掲げた内閣が、金融資産課税を口にした途端、株式市場が値下がりし、驚いて金融資産課税を引っ込めてしまった経緯があります。しかしここは、根気強く説明を続けて新税の導入を達成してほしいと思います。

●金融資産に課税するということになると個人が得た金融所得を把握する必要がありますね。

●そのとおりです。既に所有している金融資産額を把握するのは相続のときでないと困難かと思いますが、今後、毎年得る金融資産額は正しく捕捉する方法を講じることは可能です。それが現在導入途上にあるマイナンバーカードです。税務申告をマイナンバーカードで行うことを義務づけるようになれば、デジタルで毎年の金融資産所得額を個人別に把握することが可能になります。まだ今は、マイナンバーカード自体トラブルがあってその運用が軌道にのっていませんが、健康保険や運転免許証から始まってマイナンバーカードはさまざまな個人情報を管理できるようになる筈ですから、税に関することも公正に運用できるようになることが期待されます。

●ベーシックインカム導入の財源になることがだんだん分かってきました。まず現在の年金など社会保障制度の見直しから始まって、企業の利益からの配分(企業の未来戦略として)、そして増税(消費税ではなく新たな金融資産課税の導入)などですね。

●それから最近、大学生の授業料無償化の議論がありますが、ベーシックインカムを導入すれば無償化の必要性はないというお話でしたね。

●そうですね。基本的にはベーシックインカムを生まれた時から受け取れるので、赤ん坊の時や幼児期は両親ですが、人生設計を立てて、その中で教育を受けるのに必要な費用も積み立てていく必要があります。ですからベーシックインカムが軌道にのってくれば教育の無償化は必要がないという考えです。ただしベーシックインカム導入時に既に高校生とか大学生になっている人には教育を受ける支援は必要です。

●それはどのようにしますか。

●奨学金制度の拡充で対応するべきでしょう。この時受けた奨学金は学業を終えて就業すれば得られる収入から返済します。ベーシックインカム+就業で得られる所得の中から返済金を捻出するようにします。奨学金の返済のため生活が厳しく結婚や子育てが難しいというのはベーシックインカムのない現在のことで、ベーシックインカムを受けるようになればトータルとして生活設計を立てなければなりません。ここに一つ興味ある事例があります。アメリカのNPOが実施している例ですが、大学を卒業した学生に対して、一定の期間、小学校や中学校の教師をした場合、残っている奨学金を棒引きするという仕組みです。NPOは学校側の需要と生徒側の要望をマッチングさせる仕事をします。日本でも近年、学校の先生になる人材が少なく先生不足という事態が起こっています。アメリカのNPOが実施しているように先生職の需要と供給をマッチさせる事業は、日本でも検討する意味があるようです。文部科学省と教育委員会の抵抗があるかも知れませんがね。

●年金をはじめ生活保護や生活困窮者の支援など国や自治体が住民に支給するお金の支払いに関して取り扱う人件費や手数料など様々な経費が必要です。これらの経費が現状多額になっているようですが。

●そうですね。マイナンバーカードができると公的なお金の振込先を登録するので、国や自治体からの振込先を一本化できます。個々に処理している事務を一本化するメリットは大きいですね。デジタル技術を活用して人件費や事務経費を徹底して節減し、それをベーシックインカムの財源にすることができればいいですね。無駄な経費を節減するためにベーシックインカムの導入が役に立つと思います。

●ベーシックインカムに必要な財源について、国が必要なだけ貨幣を印刷すればよいだけのことという議論もあるようですが。

●現在も財政規律の重要性を指摘する議論があり、政府も財政の基礎的収支の健全化(歳入と歳出のバランス)を図ろうとしていますが、なかなか実現できずに先送りされています。しかし国が必要な貨幣を印刷すればいいだけという議論は乱暴です。国際情勢を取り巻く状況や災害救済のためなど国の歳出は削減どころか増加する傾向があります。それを増税で賄うことは国民が納得せず、政府も踏み出し切れずにいます。やはり歳出は出来るだけ削減する努力は捨てるわけにはいきません。まだまだ無駄遣いがあります。

●コストカット型の運営では景気がよくならないという意見がありますが。

●賛成できませんね。企業は常にコスト削減に努力しています。家計も最近の物価高では切り詰めた生活を強いられています。国も同じです。財政のタガが緩んだままでは健全な国の運営はできません。何が必要で、何が無駄かということに目を光らせることはどんな状況でも大切なことです。

●ベーシックインカム導入の国民的議論を開始する機運をつくるタイミングが大切と思いますが、やはり経済が好調な時が好ましいでしょうね。

●そうです。多くの国民が前向きに事態を捉えるタイミングが大切ですね。

●株価が未曾有の4万円をうかがっているようですが、一つのチャンスでしょうか。

●いま株価が好調なのはコロナが一応収束して企業活動がなんとか復活しつつあるからでしょう。日本の企業に対する期待が高まって海外の投資家が日本の株を買っています。反面、日本人は株を売っているようです。これは株価上昇に伴う利益を確保しておこうという動きでしょう。日本企業の業績の見通しがよいことは喜ばしいことです。ただ最近、一部企業の不正が起こっています。これが目先の利益をあげるために起こったとすれば大変です。日本企業に対する信頼が揺らぐようなことにならないように抜本的な対策が求められます。ベーシックインカムの導入にあたっては移行期において多額の資金が必要になることは否めません。その時期に株や国債が値崩れしないように国・企業・国民が協調することが肝要です。

●ベーシックインカムの導入には様々な要素に配慮する必要があることは分かります。しかし日本の経済や政治をめぐる情勢は時と共に変化しますからタイミングを待っているといつまでも導入できないのではないでしょうか。

●そのとおりでしょう。タイミングを待っている間にも少子化は進みます。事態は深刻化する一方ですからどこかで思い切った決断をしなければなりません。決断には国民的な同意が不可欠ですから、ベーシックインカムの制度設計を行なって国民に示すことが必要です。

●制度設計はだれができますか。

●政治家(政党)が発案して官庁に指示して作業を進めるというのが常道ですが、それにまかせていてはなかなか進まないでしょう。大学の研究機関が立案するのも一案ですし、国が専門の組織をつくり官民共同で進めるのもいいですね。

●政党の考え方はどのような状態ですか。

●大きくは2つに分かれています。現野党(立憲・維新の会)は賛成側で、与党(自民・公明)は賛成ではないようです。政権を持っている自民は現在の政策から分かるように子育て世代や生活困窮者への支援で対応しようとしています。一方野党はベーシックインカムの導入に関心を寄せていますが、「財源をどうするのだ」という与党側の攻勢には対応できず、議論が進んでいないようです。

●確かに財源が見いだせないと議論は進まないように思いますが、日本の少子化はもう議論をしている段階を過ぎてしまっているのではないでしょうか。

●そのとおりだと思います。いまの小手先の政策では根本的な解決策にはならないと思います。残念なことは、その認識がないことです。少子化の流れを止めるにはまず、結婚する若者を増やさなければダメです。結婚して子育てをしようという意欲を醸成するには、将来不安という壁を打破しなければなりません。一生懸命まじめに働き続ければ老後の生活は大丈夫という安心感を持てることが大切です。しかし今の日本はその流れに逆らっていると言わざるを得ません。

●どういうことでしょうか。もう少し詳しく教えてください。

●株価の上昇が続き4万円を超え市場最高の価格なっています。30数年振りという活況です。株価が高い水準にあることは日本企業への評価の高まりとして喜ばしいことです。ただその要因は新NISAへの投資が始まりそれが日本株の購入に向かったためだと言われています。新NISAは国民が将来の資産形成を自己の責任において考える手段として政府が鳴り物入りでPRした成果といわれます。裏を返すとこれまで年金制度で保障してきた高齢者対策は、高齢化の進展とともに将来継続が困難となり老後の生活設計は自己責任で考えてほしいということです。高齢化が進み現在水準の年金制度の継続が困難になるという事情は理解しなければなりません。しかしそれを若い世代の自己責任で解消しようという政策は将来不安を呼び起こしている原因になっており、若い世代が結婚や子育てに踏み切れない一因になっていることを見逃すわけにはいきません。いま株価が高値を示しているといっても、30数年振りということです。株価は将来下落することもあります。むしろ株価は高下するのが当たり前のことですから、いま投資した株が将来、価値を下げることは覚悟しなければなりません。だからこそ投資をする場合、長期保有をしなさいと専門家は口を揃えて言います。しかし長期保有といっても何時までなのかは誰もいえません。投資が継続できなくなる時点で、投資した株価が投資時より下落して額面割れを生じ損が発生することも当然にあることです。現に30年振りに元に戻ったということなのです。若い世代が始める投資が将来価値が高くなるという保証はありません。もちろん今の水準から下落するかどうか分かりませんが、将来の希望が失望に終わりこともあり得ることです。そうした予測困難な中で、若い世代の将来不安を払拭することはできないと思います。それが払拭できなければ少子化を防ぎえないと考えるべきでしょう。大切なことは真面目に生涯働けば、老後の安定が得られるという確信でしょう。

●そのために、現在の年金制度に代わるベーシックインカムを導入した方がよいということでしょうか。

●2050年の日本の人口予測は1億人で、現役世代と高齢者の人口が1対1に近づくとされています。1億人の人口は確保して、このあたりで少子化をストップさせたいものです。そのためには財源問題について可能な方策として、高齢世帯が保有しているとされる大きな資産に対して資産課税を導入することが不可欠になるでしょう。また金融所得に対しても投資意欲がなくならない程度の課税強化が必要になるでしょう。また少子化は企業にとって働き手の減少や国内消費の縮小などの好ましくない事態を招くことになりますから、企業からの収入(例えば少子化ストップ税制)を増やすための協力体制を構築することも考えねばならないと思います。そして高齢者の中でも健康で働く意欲がある人々に働く場を提供する対策も考える必要があります。このように財源を増やす方策を講じながら、ベーシックインカムの導入によって削減できる年金を初め現在施行されている補助や助成金を算定して、ベーシックインカム導入の工程表を作成することです。

●ベーシックインカム導入の入り口で、財源論に妨げられていてはいけないということですか。

●そうです。いずれにしても現行の年金制度からベーシックインカムへの移行期には多額の資金が必要なことは分かっていますが、上記のさまざまな対応策でも不足する部分については国債でまらなうことが必要なので、国債発行額がピークでどのくらいになるのか制度設計をもって試算することが必要です。躊躇していたら2050年1億人という線も守り切れないことになると思わねばなりません。

●ベーシックインカムとして1億2千万の国民に月5万円を支給する場合、月に6兆円、年間72兆円の資金が必要です。一方、2024年度の国の予算のうち高齢化や少子化対策の強化に伴い社会保障費が約37兆7千億円となります。社会保障のうち医療(12兆3千億)や介護(3兆7千億)に必要な予算を残すとして、年金や生活保護や子ども対策の資金はベーシックインカムの導入によって必要性がなくなるとすると、差し引き21兆円くらいは不要となります。つまりベーシックインカムの導入によって新たな資金が72兆円プラス医療・介護の16兆円併せて88兆円が必要となる計算です。

●試算によれば88兆円の資金が必要で、片や21兆円が不要となるとすれば実質67兆円が増加することになるわけですね。

●大きな資金が新たに必要となるわけですが、少子化をストップするためにはこれくらいの思い切った対策を講じないと国民の将来不安は解消されないと思います。決断が必要です。財源確保には先に述べた資産課税の導入や企業からの支援基金の創設などと共に思い切った行革によって効果のない政策を廃止することが不可欠です。若い世代が将来不安なく職業に励み、所得から新NISAのような投資にも参加する意欲を醸成していくことが肝要です。

●ベーシックインカムの導入について議論が始まることを願いたいですね。

●これまでの議論でベーシックインカムの導入には多額の資金が必要であることは分かりました。年金等の経費不要(重複分の削除)や節減(行革等)になる部分、新たな税による収入(金融所得課税等)が期待できる部分、新たな企業からの基金(少子化経済を緩和するため)などを考慮して、さらに不足部分は国債の発行に委ねるとしても、そんな大きなお金は今の日本では不可能と思われるので、そこでベーシックインカム導入の議論は壁にぶっつかって、前に進みません。しかしこれまでにも述べたように、その間にも少子化はどんどん進んでいきます。最近発表された日本の2022年までの5年間の合計特殊出生率は1.33で、人口が減少にならないために必要とされる2.1という数値を大きく割っています。正直、もうどうしようもないと諦めざるをえない数値になってしまいました。これを逆転させ増勢に転じるには思い切った対策が必要であることは自明の理といえます。

●そのような状況の中で、ひとつの光明があります。それは輸入に頼っているエネルギーの自給率をあげることによって輸入額を減らすことです。現在の日本のエネルギー自給率は11%余りというところです。国民が支払っているエネルギー代金(電気・ガス)の9割近くが外国へ支払われているということです。石油・石炭・天然ガスなどいわゆる化石燃料を輸入に依存しているからです。しかし日本は2050年にはカーボンゼロを目指しています。つまり海外からの化石燃料の輸入をいつまでも続けているわけにはいかないのです。その額は現在年間100兆円を超えています。原料資源を外国に依存せず国産で賄うことによって自給率を向上させ、エネルギーに関わるお金を国内で循環させる対策を立てることです。

●カーボンゼロすなわちCO2を排出しないエネルギー源として注目されるのが水素です。CO2を出さないという点から原発を推奨する意見もありますが、原発は次世代型とはいえ処分の困難な廃棄物を生み出します。CO2排出ゼロでもゼロエミッション(ごみゼロ)とはいえませんから環境の観点から見て推奨できません。その点、再生可能エネルギーを電源とする水電解で生産する水素は、生産の過程でも消費の過程でもCO2ゼロかつゼロエミッションですから、まさに理想的なエネルギーといえます。水素は現在はまだ高くつきますが、将来計画では化石燃料並みにコストを引き下げることが可能と見込まれています。

●現在日本が輸入に頼りCO2を排出している化石燃料を将来(2050年目途)水素に切り替え、天然資源に関わる国の安全保障のレベルを向上させつつ、エネルギー自給率の向上を図るというまさに一石二鳥の戦略が目の前にあるのです。エネルギー輸入に関わる資金の海外流出を止め、国産で水素利活用を推進するならば、日本の財政は豊かになるに違いありません。さらに水素に関わる技術革新により、国内産業を活性化し経済発展につなげていくことができます。そしてそこで獲得できる資金をベーシックインカム導入に向けるという戦略はいかがでしょうか。

●ベーシックインカムの導入は国民(特に若い世代)が将来不安を抱くことなく、また子育てや教育に必要な費用を準備できる(少子化対策でもある)ように、全国民を対象にするもので、福祉政策といえます。一方、水素エネルギーの導入は産業政策あるいは環境政策と考えられるものです。国の組織では、福祉政策と産業・環境政策は所轄する部門が異なりますから、この二つの政策を一つの行政部門が発案することは期待できないといえます。これらの二つの政策を一本化してワンセットとして政策に取りあげるには、現在の国の組織の枠を超えた発議機関が必要です。国にもそのような会議や委員会があるようですが、どうしても委員が専門分野からの意見を述べるにとどまり、もう一段高い視野に立った意見が出され討議される機会はないに等しい状況にあるといえます。どうか、トータルの一段視野の広い立場からの議論を期待したいですね。

●そうすれば、「財源がない」と頭から議論を拒否されることはなく、若い世代が将来年金はどうなるのか不安を抱くことなく、自分の人生計画を立てることができて、その中で結婚・子育ての夢も実現できていくと期待できます。いつまでも今のような目先の小刻みな対策を積み重ねているだけでは、いつまで経っても日本の少子化は改善できず、もう諦めるしかないかも知れません。

●ドル高・円安が進んでいます。1ドル157円という為替レートはこれまた30何年ぶりの円安相場ということです。今の日本経済は、円安・株高です。円安がよいか、円高がよいか、は立場によって考え方が違います。輸出の立場からいうと円安が好ましいし、輸入の立場からいうと円安は好ましくありません。今の円安は自動車をはじめ輸出産業には有利で業界は過去最大というような企業業績をあげています。また外国から日本へ遊びに来る人にも円安は歓迎でインバウンドが増えています。他方、輸入が多いエネルギーや食品の価格は円安によって更に高騰を続けています。また外国へ観光に出かけたり留学するには円安は高くつきますから大変です。海外から日本へ働きに来て母国へ送金しているような人たちにも円安のために送金する価値が目減りしています。日銀は今の為替水準を許容する政策のようですが、国民の日常生活は物価の高騰で苦しさを増しています。「なんとかしてほしい」というのが多くの国民の願いと思いますが、政府も日銀も為替の動向には注視していると口ではいうものの、現実の政策を転換する意図はないようです。しかし実業界からも今の円安は行き過ぎで、この状況が続くと日本国内の購買力の低下につながり、先行きが心配という声が出ています。

●そもそもドル高・円安は日米の金利差が原因といわれています。しかし日本は金利を上昇させることが極めて厳しい状況にあります。企業レベル(特に中小企業)では低金利が経営を支えてきたという事情がありますし、住宅ローンが高くなるのは困るという国民も大勢います。そして金利が高くなれば多額の国債を発行してきた日本は、国債に対する金利負担が大きくて財政を更に圧迫するという危惧があります。簡単には金利は変えられません。しかもアメリカの金利が5%台、日本の金利はゼロ・コンマ以下というレベルですから、日本が少々金利をあげても差が縮まるということはいえません。ここはアメリカが金利を下げることを期待するしかないのでしょうか。

●1ドル160円という円安が一時、起きました。さすがの財務省も為替介入をしたと思われます。5兆円規模の介入があったといわれています。その効果で155円くらいまで円高に振れました。しかし介入による為替相場の変動は、その効果が一時的で基本的な為替対策ではありません。今日のドル高・円安の原因は日米の金利差にあるというのが通説ですが、アメリカの経済が予測よりも強く、うわさされていた金利是正(金利を下げる)が予測どおりには行われず、先送りされそうである、というので、円安が加速されるという状況のようです。しかし円安の原因は果たして金利差にあるだけなのでしょうか。ドル高・円安は、弱い通貨の日本円を売って強い通貨の米ドルを買うことに起因するので、金利差以外に基本的には日本経済が弱く、アメリカ経済が強いという見通しに基づく事態なのです。一部の企業家や識者から、日本が弱体化しているということを示唆する事態であると指摘されています。「日本が弱くなっている」という意見は素直には受け入れ難く、今日のドル高・円安に正面から向き合おうとしせず、金利差のせいにしておこうというのではないか、と危惧されています。

●ではどこに基本的な問題があるのでしょうか。日本は長年にわたって大きな課題を抱えたままでいます。例えば、エネルギーの自給率、食料自給率があります。この2つは国の根幹を決めるというほどの大きな問題ですが、日本はこの2つの自給率を改善・向上させるという努力(政策の実行)を怠ったままです。エネルギー自給率は11%、食料自給率はカロリーベースで40%未満という状態です。それが近年の国際紛争に起因して、日本国内のエネルギー価格は高騰し、食品の価格も高騰し続けて国民の生活を圧迫しています。これらの生活必需品の価格高騰を政府は賃上げや所得税控除や補助金で凌ごうとしていますが、それでは問題の根本的な解決にならない、ということを金融市場に見透かされているということです。

●そうではなくて、エネルギー自給率の向上、食料自給率の向上に真剣に取り組むという国の政策決定が待ち望まれているのです。「国の力を強くする」という戦略が必要です。日本はこれらの基本的な政策決定を試みず、手をこまねいている、と世界から見透かされているのです。